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大阪高等裁判所 昭和37年(う)102号 判決

被告人 中西竹義

主文

原判決中被告人中西竹義に関する部分を破棄する。

被告人を懲役一年に処する。

理由

論旨は、原判決の量刑は重きに過ぎ不当であるというにある。

よつて本件記録及び原裁判所において取り調べた総ての証拠を精査して本件犯行の動機、態様、被告人の前科、家庭状況、経歴その他諸般の事情を考慮すると、本件は被告人が原審相被告人荒山伊勢一、同荒山一市から誘れるまゝに三菱倉庫株式会社大阪市店長松村正直保管に係る輸入許可未済の外国貨物米綿二梱(時価合計八万七千四百七十円相当)を窃取した上之を陸揚輸入しようとした事案であつて、本件物件は犯行直後全部被害者に還付されているとはいえ、被告人はかつて窃盗などの犯行により度々刑事処分を受けながら、更に本件犯行に及んだ犯情は決して軽視できないものであり、何等恕すべき点は認められない。原審が被告人を懲役一年に処したのは相当である。

しかし、追徴の点について調査すると関税法第百十八条は許可を受けないで貨物を輸入し又は輸入しようとした場合においては、右犯罪にかかる貨物又はこれに代るべき価格が犯人の手に存在することを禁止し、もつて密輸入の取締を厳に励行せんとする趣旨から、その貨物が、犯罪当時から善意の第三者の所有物件であるとき及び犯罪後善意の第三者に取得されたときの外は之を没収すべきものとし(同法第百十八条第一項)、その没収すべき犯罪貨物が事実上没収できない場合又は犯罪貨物が前記の如く犯罪後善意の第三者に取得されたためこれを没収しない場合においては、没収に代るものとして、犯罪が行われた時の貨物の価格に相当する金額を犯人から追徴すべきものとしている(同条第二項)ところ、本件物件は関税法第百十八条第一項第一号に所謂犯罪当時から善意の第三者の所有する物件であつて、没収の対象物件ではないから、同条第二項に所謂「前項の規定により没収すべき犯罪貨物」に該当しない。なお「同条第一項第二号の規定により没収しない場合」に当らないことは勿論である。したがつて、本件犯罪貨物が窃盗の被害者に還付されて没収することができないからといつて、「没収すべき犯罪貨物を没収することができない場合」であるとして、之に代る価格を追徴することは許されないものといわなければならない。されば関税法第百十八条を適用して被告人等から本件犯罪貨物の時価金八万七千四百七十円の追徴を言渡した原判決は、法令の適用を誤つたものというべく、この点において破棄を免れない。

よつて刑事訴訟法第三百九十七条第一項第三百八十条に従い原判決中被告人中西竹義に関する部分を破棄すべきものとし同法第四百条但書に則り更に判決する。

原判決認定の事実に法律を適用すると、判示所為中窃盗の点は刑法第二百三十五条第六十条に、関税法違反の点は関税法第百十一条第二項第一項刑法第六十条に夫々該当するから、後者については所定刑中懲役刑を選択し、被告人には原判示の如き前科があるから右各罪につき刑法第五十六条第五十七条に則り累犯の加重をなし、以上は同法第四十五条前段の併合罪であるから同法第四十七条第十条第十四条に従い重い窃盗罪の刑に法定の加重をなした刑期範囲内において被告人を懲役一年に処することとし主文の通り判決する。

(裁判官 奥戸新三 竹沢喜代治 野間礼二)

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